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木村太郎さん特別寄稿:その2『船遊びでは、大航海時代に思いをはせて、アナログ作業もまた楽し』
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 屋根裏の物置きの片付けをしていたら、古いDFが出てきた。
 DFと言っても、最近は知らない人が多いかもしれないが、Direction Finderの頭文字をとった文字通り「方位を探す」道具だ。各地の灯台から発射されている電波を受信してその方向を測り、三角法で自分の位置を知るとことができた。
 真珠湾攻撃の際に、日本海軍の攻撃部隊がホノルルの放送局の電波をたどって飛んでいったのと同じ原理だ。各地の灯台にはそれぞれモールス信号の識別符号が割り当てられている。例えば東京湾の入り口の剣埼灯台の無線標識は「TG」つまり「− −−・」 だった。
 電池をいれると、ちゃんとスイッチが入ったが、灯台の無線標識の周波数の300KHZあたりを探してもウンともスンとも言わない。海上保安庁に確認したら、案の定、中波帯の無線方位信号は昨年から09年度までに順次廃止されているとのこと。
 私のDFが屋根裏に放り込まれていたように、いまでは小型のプレジャーボートでもGPSのナビゲーション・システムを備えるようになって、中波帯の無線標識の役目は終わったのだろう。
 今は、海図を持っていない船も多いらしい。確かに、ナビ画面を見れば海図にプロットする手間もいらないわけで合理的と言えばそうだ。チャートテーブルを省略したクルーザーヨットも見かけるようになった。
 しかし、それではちょっと寂しい。と言っても、シーマンシップがどうのこうのと建前論を展開するつもりではない。実は、ナビゲーションは船遊びの大きな楽しみではないかと思うのだ。
 古くは、ポリネシア人が星を頼りに太平洋をところ狭しと航海したことや、羅針盤がもたらした大航海時代の物語は年をとっても胸躍る思いにさせる。デジタル時代だからこそ、船遊びの際はすこしアナログにもどってもよいのではないだろうか。
 六分儀の操作が一級免許の試験からなくなった今、船に乗るときにはせめてハンドコンパスで方位をはかり、デバイダーや三角定規を駆使してチャートにプロットしながら走ったらどうだろうか。
 「プロねぇ」と女性の同乗者を感心させることになるかもしれない(保証はできないが)。また、万一電源がアウトになったときにも慌てなくて済むだろう。
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